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審査員による講評

森山明子先生

【森山明子先生プロフィール】
'75年特許庁入庁。意匠課審査官、財団法人国際デザイン交流協会勤務等を経て、
'86年日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社。『日経デザイン』の創刊にかかわり、'88-'93年副編集。
現武蔵野美術大学教授

●バードハウスデザインのフェアユース化について
通常コンペや審査をする際、出展されたデザインには意匠権、著作権などがあり、基本は未発表のものであり、
デザインを真似ることは禁じられている。
しかしバードハウスの選考は人間だけでなく鳥の目で選ぶものではないだろうか。
例えば鳥が気安いバードハウスのデザインがあって、
それを他の人が真似て同じデザインのものを作ることはいけないことなのだろうか?
知的財産や権利の問題はとても重要なことだが、ことバードハウスに関しては、その流れと逆に、
鳥がいいと思うバードハウスは各々の家庭で、またみんなで共有されるデザインとして多く作られてもいいのではないだろうか。
その方が鳥にとっても、いいことなのだろうと思います。

●印象に残ったバードハウス
9番。りんごはみんなが大好き。その中に鳥が入る。どんなにいい香りがする家なのだろう!そんな想像力が働く。視覚的にもユニーク。
10番。三角の流れ屋根が主流だが、このバードハウスの丸い屋根は、素材、形ともに、とっても愛情が感じられました。

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藤森照信先生

【藤森照信先生プロフィール】
日本の建築史家、建築家(博士 (工学))。元東北大学非常勤講師。
工学院大学教授、東京大学名誉教授、東北芸術工科大学客員教授。
専門は、日本近現代建築史、自然建築デザイン。
日本建築学会の建築歴史・意匠委員会委員を歴任。

●今後のバードハウスの展望について。
鳥がどれを選ぶのかな。色のついたバードハウスに鳥が巣をつくるのか、科学的なデータも今後欲しい。
色がついているのと、ついていないものを並べて設置してどちらに入るのか?
北海道の例では、その土地柄と関係しているのか?
かえって目立つほうが鳥が利用しやすいのかも知れない。
今後の課題として、観察を続けて、実際に巣作りしているところを見てみたい。
楽しみにしています。

●印象に残ったバードハウス
31番…表に鳥の絵が描いてあったが、あれは鳥が警戒するのか、逆にデコイみたいに仲間だと思ってやって来るのか、楽しみだね。
40番…既存タイプ(ワークショップ作品)の中でも、細かく手が加えられていて、既存感がなくされていておもしろい。
19番…案外、こういうのがいいのかもしれない。

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井筒明夫さん

【井筒明夫さんプロフィール】
セゾングルー プ・西武百貨店、パルコ等の総務、開発、建築担当役員をへて
ノール・インターナショナル・ジャパン代表取締役社長就任。
退任後北海道東海大学非常勤講師として 現代デザイン論、
余技のバードハウス研究について論文、講演。
元ヴェンチューリ・スコットブラウン建築設計事務所相談役。

●スライドを使用して下記のお話をいただきました。
①バードハウス講演、ワークショップのあと必ず出るのは本当にバードハウスを野鳥が営巣で利用するのかという質問。
日本野鳥の会創設者中西悟堂氏の「善福寺禁猟区と巣箱」によると、“昭和10年に善福寺風致地区に30個の巣箱を懸架したが利用率は極めて低かった。”“「同地区が警視庁管轄の禁猟区」であり使用許可がおりず懸架が営巣終了後の5月だったためと考えられる”と述べています。その他、各種巣箱懸架報告によると一般的には巣箱を使用して雛を育てる利用率は35%位と云われています。バードハウスは風雪害時のシエルターとしても利用されます。

②利用率を高めるためには、まず野鳥たちを招くことです。其のためには、カラス、猫、蛇、ねずみ等野鳥たちの外敵を排除、安全な生活環境の提供し、また快適な環境の整備をすることが必要です。
a.野鳥を招くためには新鮮な水 バードバス
b. 美味しい、何時行っても食べられる食物と環境、バードフィーダー
c. そして子供を安全に、快適に育てることの出来るバードハウス
バードハウスを利用しての巣作り、巣立ちの期間は短く野鳥たちと接する時間は僅かです。バードバス、フィーダーを設置することで一年中、野鳥たちを招くことができます。そして、人間と野鳥の共生のシンボルであるバードハウスを設置する。

③2008年1月INAX銀座で講演した時、日本最大の練馬光が丘団地に住んでいる初老の婦人が、野鳥をベランダのバードハウスに招きたいと相談がありました。早速バードハウスを作ってあげると、3月にシジュウカラが来て卵を産みましたとの報告。本年は団地の壁を塗り替えるのでバードハウスをどうしたらよいかとの相談、出来るだけベランダに近い場所の樹木に移動するようアドバイス、3月31日には雛が生まれたとの報告、3年連続の雛の誕生です。

④私の本を読んだ愛鳥家の杉浦さんは2004年市役所に日参、徳川家康の岡崎城のある岡崎公園南公園にバードハウスをかける許可をとり大成功。2008年には新しく出来た「岡崎市図書館交流プラザ、通称「りぶら」オープニングイベントで愛知造形大学の学生たちと講演会、ワークショップ、バードハウス展を開催しました。4年間の努力の成果です。

⑤野鳥の表情を巧みにとらえる写真家山縣さん宅では厳冬でも野鳥が水浴びをしています。こうした環境だからこそ野鳥がバードハウスで雛を育てるのです。野鳥の生活環境を整えてやることが野鳥を招くコツです。

以上、バードハウスに野鳥たちを招くためには、鳥たちにとって安全で安心できる環境を整えることが重要です。そして、その環境作りは自然の回復、保護につながります。2009年米国内務省魚類、野生生物管理局発表の米国野鳥白書は“野鳥の存在は自然環境の健康状態を示す指標”であり“野鳥は人類が後世に引き継がなければならない貴重な遺産である”と指摘しています。最近雀の減少が目立っていますが、これこそ我々を取り巻く自然環境の悪化を示すものなのです。
バードハウスには「自然は大切である」「野鳥たちは後世に引き継ぐべき遺産である」という思想がある。バードハウスはファッションではいけません。自然保護の運動は一人ではできません。家族、地域、自治体とみんなで行うことが重要なのです。